一棟アパートやマンションの売却は、不動産投資における「出口戦略(イグジット)」の総仕上げです。ここで高値売却に成功すれば、これまでの投資は大成功となりますが、売り方を間違えれば、長年の家賃収入が吹き飛ぶほどの損失を被ることもあります。
一棟売却は、マイホームの売却とは全く異なるルールで動いています。 この記事では、実際にあった「成功事例」と「失敗事例」を比較・分析し、そこから見えてくる「高値売却の鉄則」と「陥りやすい罠」について解説します。
成功と失敗の分かれ道は「準備」と「タイミング」
一棟アパートの売却価格は、「相場」だけで決まるものではありません。 「誰に売るか」そして「どの銀行が融資を出すか」という金融情勢によって、数百万円、時には数千万円もの価格差が生じます。
成功するオーナーは、売却を思い立ってから実際の行動に移すまでに、入念な「商品化(物件磨き)」を行います。一方、失敗するオーナーは現状のまま市場に出し、投資家から厳しい値引き要求(指値)を受けてしまいます。
この違いはどこから生まれるのでしょうか。具体的な事例で見ていきましょう。
【成功事例】満室稼働と「融資付き」で相場より高く売却(Aさん)
築25年の木造アパート(10戸)を所有していたAさん。大規模修繕を前に売却を決意しました。
【Aさんの戦略】
Aさんはすぐに売りに出さず、半年かけて空室だった2部屋をリフォームし、「満室」にしてから市場に出しました。 さらに、依頼した不動産会社と協力し、「この物件なら〇〇銀行の金利〇%のローンが使える」という融資プランをセットにして提案しました。
【結果】
「満室稼働中」という安心感と、具体的な「融資の道筋」が見えていたことで、サラリーマン投資家からの買い付けが殺到。 結果として、相場利回りよりも低い利回り(高い価格)での売却に成功し、購入時よりも高く売れるキャピタルゲインまで獲得しました。
【勝因のポイント】
満室経営: 買い手が一番嫌がる「購入直後の入居付けリスク」を排除した。
融資のセット販売: 銀行開拓が苦手な初心者投資家を取り込み、競争倍率を高めた。
【失敗事例】空室放置と「売り急ぎ」で足元を見られ大損(Bさん)
一方、築30年の鉄骨アパートを相続したBさん。管理が面倒で、空室が3割ほどある状態(10戸中3戸が空室)で放置していました。ある日、急にまとまったお金が必要になり、慌てて売却活動を開始しました。
【Bさんの状況】
「現状有姿(そのままの状態)」で売りに出しましたが、レントロール(家賃表)の稼働率が悪く、見栄えの悪い数字に。 さらに「今月中に現金化したい」と不動産屋に伝えてしまったため、その情報が投資家に漏れ、「売り急ぎ」と判断されました。
【結果】
一般の投資家からは「空室リスクが高い」「融資がつきにくい」と敬遠され、最終的に「買取業者」に相場の7割ほどの価格で買い叩かれてしまいました。本来なら手元に残るはずだった1,000万円近い利益を失う結果となったのです。
【敗因のポイント】
空室の放置: 「空室が多い=何か問題がある物件」と見なされ、足元を見られた。
売り急ぎ: 時間的な余裕がないことは、交渉において最大の弱点となる。
明暗を分けた「不動産パートナー選び」の重要性
上記のAさんとBさんの事例から分かるように、物件そのもののポテンシャル以上に、「売り方」の戦略が結果を大きく左右します。そして、その戦略を立案・実行できるかどうかは、パートナーとなる「不動産会社選び」にかかっています。
Aさんが依頼したのは、投資用物件を専門に扱う不動産会社でした。彼らは銀行の融資基準を熟知しており、どのような資料を作れば銀行評価が出るかを知っていました。
一方、Bさんが依頼したのは、近所の「街の不動産屋さん(賃貸メイン)」でした。彼らは一棟売買のノウハウが少なく、単にレインズ(不動産流通機構)に登録して待つだけだったため、海千山千の投資家に安く買われる隙を与えてしまったのです。
まとめ
一棟アパート売却の成功と失敗を分ける鍵は、以下の3点に集約されます。
「満室」にしてから売る: 空室は「値引きの口実」にされます。多少コストをかけても、埋めてから売る方がトータルの手取りは多くなります。
「融資」を意識する: 次の買主がローンを組める状態か(資料は揃っているか、違法建築はないか)を確認しましょう。
「投資専門」の業者に頼む: 売却活動は情報戦です。投資家のリストを持ち、金融機関に強いパートナーを選びましょう。
「売りたい」と思った時が、必ずしも「売り時」とは限りません。まずは信頼できる専門家に物件診断を依頼し、「今売るといくらか」「満室にしたらあいくらになるか」をシミュレーションすることから始めてみてはいかがでしょうか。









