個人と法人どちらが有利?一棟アパート売却時の税制比較

2025/09/06
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一棟アパートを売却する際、多くの方が最も頭を悩ませるのが「税金」です。個人のまま売却するか、それとも法人として売却するかによって、最終的に手元に残る金額は大きく変わります。

一棟アパート売却時の税金は、個人の場合は「譲渡所得税」、法人の場合は「法人税」の対象となります。今回は、それぞれの税制を分かりやすく比較し、どちらが有利になるか判断するためのポイントを解説します。

個人で売却する場合の税制

個人で一棟アパートを売却した場合、その売却益は「譲渡所得」として、他の所得とは分けて税金が計算されます。

税金の計算方法

譲渡所得 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)

収入金額: 売却価格

取得費: 土地・建物の購入費用、仲介手数料など。建物は減価償却費を差し引いた金額

譲渡費用: 売却時の仲介手数料、印紙代など

税率

譲渡所得税の税率は、アパートの所有期間によって大きく異なります。

長期譲渡所得(所有期間5年超)
所得税:15%
住民税:5%
合計:20%

短期譲渡所得(所有期間5年以下)
所得税:30%
住民税:9%
合計:39%

※上記に加え、復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加算されます。

メリット

手続きが比較的シンプルで、売却益が少ない場合は税率が低いため有利になることがあります。

デメリット

短期で売却すると税率が非常に高くなります。また、他の所得(給与所得など)とは合算されないため、節税の幅が限られます。

法人で売却する場合の税制

法人で一棟アパートを売却した場合、売却益は法人の「利益」として、他の事業の収益や費用と合算されて課税されます。

税金の計算方法

法人の売却益は、他の事業の赤字と相殺することができます。最終的な「法人の所得」に対して、法人税等が課税されます。

法人の所得 = (アパート売却益 + その他の事業収益) - (その他の事業費用 + 経費)

税率

税率は、法人の所得金額によって変わりますが、実効税率(法人税、法人住民税、法人事業税の合計)は概ね**20%〜34%**程度です。

中小企業の場合、所得800万円以下の部分は15%の法人税率が適用されるなど、税率が優遇されることがあります。

メリット

節税の幅が広い: 売却益を役員報酬として分散することで、個人の所得税を抑えることができます。

損益通算が可能: 法人の他の事業で赤字が出ている場合、アパートの売却益と相殺して税負担を減らせます。

税率が安定: 短期譲渡でも税率が変わらないため、所有期間が5年未満でも税負担を抑えることができます。

デメリット

設立・維持コスト: 法人設立費用や、毎年の税理士への報酬など、維持コストがかかります。

経理処理が複雑: 毎年の決算や税務申告など、個人事業主よりも経理処理が複雑になります。

結論:どちらが有利かは「状況」による

一棟アパート売却時の税制は、個人の場合と法人で大きく異なるため、どちらが有利かは以下のポイントで判断します。

所有期間

5年超: 個人の長期譲渡所得税率(約20%)は低いため、売却益が少額であれば個人のまま売却する方がシンプルで有利なケースが多いです。

5年以下: 個人の短期譲渡所得税率(約39%)は非常に高いため、法人の税率(20~34%程度)の方が圧倒的に有利になります。

売却益の金額

多額の売却益: 個人の場合、譲渡所得税と個人の所得税が合算されるため、税率がどんどん上がります。売却益が大きい場合は、税率が安定している法人が有利になることが多いです。

他の事業の有無

法人の場合、売却益を他の事業の赤字と相殺できるため、複数の事業を経営している場合は法人が有利になります。

最終的な判断は、あなたの物件の状況や将来の事業計画によって変わります。迷った場合は、不動産売却に詳しい税理士に相談し、シミュレーションしてもらうことを強くお勧めします。

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