一棟アパートや一棟マンションの売却は、区分マンションや戸建ての売却とは全く異なるノウハウが必要です。動く金額が大きい分、わずかな判断ミスが数百万円の損失につながることも珍しくありません。
成功しているオーナーは、売却の「流れ」を完全に把握し、要所での「落とし穴」を回避する術を知っています。
複雑な「一棟売却」を成功に導くための標準フロー
まずは全体像を把握しましょう。一棟収益物件の売却は、通常の不動産売却に加え、「賃貸経営の引き継ぎ」という側面が強く、以下の5つのステップで進行します。
・売却相談・査定: 物件の収益性や積算価格を算出し、売り出し価格を決定。
・媒介契約・販売活動: 投資家向けのポータルサイトや独自のルートで買主を募集。
・買付証明書(購入申込): 買主から価格や条件の提示を受ける。
・売買契約の締結: 手付金の授受を行い、契約を確定させる。
・決済・引き渡し: 残代金の受領、登記移転、オーナーチェンジ通知の発送。
この流れの中で、成功するオーナーはただ不動産会社の報告を待つのではなく、以下の3つのポイントで主導権を握っています。
【準備編】レントロールの精査と「管理会社」への根回し
売却活動をスタートする前、最初に行うべきは「レントロール(家賃明細表)」の精査です。 買主(投資家)が最も重視するのは「利回り」であり、その根拠となるレントロールに誤りや不明瞭な点があると、それだけで検討対象から外されてしまいます。
・現在の賃料と共益費は正確か?
・空室の期間や、滞納の有無は明確か?
・敷金の預かり状況はどうなっているか?
これらを整理した上で、重要なのが「管理会社への根回し」です。 売却の噂が広まると、入居者が不安を感じて退去したり、管理会社がモチベーションを下げて客付け(入居者募集)を止めてしまったりするリスクがあります。
成功するオーナーは、信頼できる不動産会社と相談し、「どのタイミングで管理会社に伝えるか(または決済まで伏せておくか)」を慎重に戦略立てています。
【売却編】融資付けがカギ!買主の「属性」を見極める
一棟売却が長期化する最大の原因は、「融資(ローン)の不成立」です。 数千万円以上の物件を購入できる現金一括の買主は稀です。ほとんどの買主は銀行融資を利用しますが、ここで「ローン特約(融資が通らなければ契約白紙)」によるキャンセルが多発します。
ここで差がつくのが、「買付証明書(購入申込書)」が入った時の判断です。 単に「提示価格が高い人」を選ぶのではなく、「融資が確実に通りそうな人(属性が良い、実績がある人)」を優先して交渉権を与えるのが鉄則です。
「満額で買います!」という年収400万円の初心者投資家よりも、「少し指値(値下げ)は入るが、確実に融資が下りる」資産家を選んだ方が、結果として時間の浪費を防ぎ、確実な現金化につながるケースが多いのです。
【決済編】引き渡し後のトラブルを防ぐ「契約不適合責任」の調整
古いアパートやマンションの売却で最も怖いのが、売却後のトラブルです。 「引き渡し後に雨漏りが見つかった」「地中から埋設物が出てきた」といった場合、売主が修繕費用を負担する「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」を問われる可能性があります。
成功するオーナーは、契約段階でこのリスクを最小限に抑えています。
免責特約を結ぶ: 「引き渡し後の不具合については責任を負わない」という特約を盛り込む(※買主が宅建業者の場合や、大幅な値引きと引き換えにする場合など)。
期間を短縮する: 責任を負う期間を「引き渡しから3ヶ月以内」などに限定する。
告知書(付帯設備表)を詳細に書く: 知っている不具合は全て書面に残して伝え、「了承済み」として契約する。
「売り急いで不利な契約を結ばない」ことが、売却益を守る最後の砦となります。
まとめ
一棟売却は、単なる不動産取引ではなく「事業の譲渡」に近い手続きです。
正確なレントロールと管理会社への配慮で、物件の価値を証明する。
価格だけでなく「融資が通る買主」を見極め、キャンセルを防ぐ。
契約不適合責任の条件を調整し、売却後のリスクを遮断する。
この3点を意識することで、トラブルなく、かつ手元に残る利益を最大化することができます。 一棟売却はパートナーとなる不動産会社の実力が結果に直結します。一棟収益物件の取引実績が豊富な会社を選び、二人三脚で戦略を練ることが成功への最短ルートです。




